セクシュアリティ関連の英語表現 その1
英語で「映画でLGBTQ+ってよく悲劇的な死を迎えるよね」とか「障害者って性欲の主体だと思われてないよね」とか「お仲間かと思ってたけど、ストレートだったんだ」とかのセクシュアリティの話をするときに出てくる英語表現を集めました。
前回はジェンダーに関する英語表現を紹介しました。
今回のテーマは、「セクシュアリティ」です。
英語で「映画でLGBTQ+ってよく悲劇的な死を迎えるよね」とか「障害者って性欲の主体だと思われてないよね」とか「お仲間かと思ってたけど、ストレートだったんだ」とかのセクシュアリティの話をするときに出てくる英語表現を集めました。
sexuality——そもそもセクシュアリティとは?
セクシュアリティという言葉は主に性的指向の話と思われがちですが、英語では1900年より前から存在する「どのように性的な存在であるか(あるいはそうではないか)」というとても広い概念です。
(もっと遡って1850年くらいだと逆に「身体的な性の機能や状態」という非常に狭い概念として使われていたそうです。)
actual(実際の)という言葉が名詞になると actuality(現実、実態、実際のあり方)になるように、sexual(性の)という言葉が名詞になって sexuality(性のあり方)になっている、と考えると、セクシュアリティが単に性的指向の話だけではないということが腑に落ちると思います。
一方でセクシュアリティは1960年代以降急速に進んだ社会運動を背景に、一人の個人の性のあり方や性的指向だけでなく、アイデンティティや帰属意識、共通文化などの基盤となる社会的なものにもなりました。
つまり、「セクシュアリティは単に個人の性的指向の話ではない」と言う時、そこには二つの意味があるということです。
一つは「性的指向だけではなく、その個人の性に関するあらゆる現象や状況をも含む大きな概念だ」ということ。そしてもう一つは「その個人だけではなく、人間の性のあり方についてどのような解釈の言説が社会に存在しているかを示す大きな概念だ」ということです。
というわけで、今回はこのセクシュアリティという概念をできるだけ幅広くとらえ、多様な文脈から参考になる表現を取り上げます。単なる言葉の意味だけでなく、実際に文の中でどのように使われる表現なのかを例文で示しつつ、解説部分では
sexual orientation と sexual preferences の違いがどう語られてきたか
なぜ LGBTQ+ 同士は互いを family と呼ぶのか
過度に性的なものとして見られたり、逆に性的ではないとみなされることは、どのように人種や障害と絡み合っているのか
性的な惹かれと恋愛的な惹かれが一致しない、とはどういうことか
など、その表現にどんな思想的背景や政治的背景があるのかを解説していきます。
(今回はさらにおまけ付き。heterosexual や bisexual、demisexual、 fraysexual、fictosexual など、さまざまな性的指向の名前を紹介し、その意味を解説します。)
次回は近いうちに「障害編」を配信する予定です。どうぞお楽しみに。
では今回の英語表現の紹介と解説をどうぞ↓↓↓
sexual orientation
意味
性的指向
例文
We believe that everyone should be respected, regardless of their sexual orientation or gender identity.
(私たちは、性的指向やジェンダーアイデンティティに関わらず、すべての人が尊重されるべきだと考えます。)
備考
日本語には性的指向と同じ音で「性的嗜好」という言葉があります。これは英語では sexual preferences といい、「こういうプレイが好きである」とか「このようなシチュエーションを好む」とか「こういった服装でセックスしたいと思っている」などの好みのことです。一方で性的指向はどのような性別の相手に(あるいは相手と自分の性別がどのような組み合わせであるときに)惹かれるかについての概念です。性的指向は自分の意志では変えられないが、性的嗜好はやめられる(実行に移さないという選択が可能である)、という主張をする人もいます。
一方で、性的指向と性的嗜好を分ける考え方に反対する立場の人もいます。性的指向も性的嗜好の一つであり、あらゆる基準の中で性別だけを特権視する理由はない、という考え方です。さらに、性的嗜好も自分の意志では変えられないし、性的指向を実行に移さないことも可能ではないか、という主張もあります。つまり「どうしても自分より身長が高い人にしか惹かれない」という人にとっては性別と同等に(あるいはそれ以上に)身長が重要かもしれないし、身長が高い人に惹かれることはやめられないかもしれないし、その人が身長の高い人と性的行動をせずに(=実行に移さずに)生きていけるのと同程度には異性愛者だって異性と性的行動をしないで生きていくことが可能である、という考えです。
family
意味
「LGBTQ+コミュニティの一員である」
例文
He’s straight? I thought he was family!(彼異性愛者なの?お仲間かと思ってた!)
備考
形容詞のように使うものであり、a family とか the family とは言いません。
LGBTQ+コミュニティの中では、「家族」という言葉が血縁や法的なつながりを超えて使用されてきた歴史があります。 chosen family(自ら選んだ家族:血縁や法的な繋がりに関わらず、自らの意志で深い信頼と愛情を持って築く絆・コミュニティのこと)という表現を聞いたことがある人も多いと思います。
ball culture(ボール文化:主に黒人やラテン系のLGBTQ+が形成した、衣装やメイク、ダンス、歩き方などを競い合うボールというパーティーイベントのサブカルチャー)においても、各自が所属していたグループは「ハウス(家)」と呼ばれ、そこには「マザー」と呼ばれるリーダーがおり、擬似家族的なつながりを持っていました。
fetishized
意味
「(人種や障害、身体的特徴や性的指向、その他様々な属性やあり方を)性的欲望の対象にされている」(直訳すると「フェチ化されている」)
例文
Trans individuals are frequently fetishized in media and dating culture, which reduces their complex identities to mere objects of curiosity.
(トランスジェンダーの人々はメディアや出会いの場において頻繁にフェティッシュ化されており、それが彼らの複雑なアイデンティティを単なる好奇心の対象へと還元してしまっている。)
We must challenge a culture that has long fetishized queer bodies while simultaneously denying them basic human rights and safety.
(クィアな身体を長らくフェティッシュ化(性的に消費)しながら、同時に彼らの基本的な人権と安全を否定してきた文化に、私たちは異議を唱えなければならない。)
備考
対等な人間として見られておらず、一つの属性やあり方に自分を矮小化されている、という状況を指す批評的な言葉です。
例文の中の reduce 〇〇 to △△(〇〇を△△に還元する/矮小化する)も重要表現なので覚えちゃいましょう。
over-sexualized
意味
「過度に性的に描写・表現・対象化されている」
例文
Queer characters in film are often over-sexualized, creating a narrow and distorted representation that ignores their lives outside of their sexuality.
(映画におけるクィアな登場人物はしばしば過度に性的な役割を強調されており、性生活以外の人生を無視した、狭く歪んだ表象を生み出している。)
The historical over-sexualization of Black bodies has been used as a tool of dehumanization, justifying violence and systemic control under the guise of “natural” racial traits.
(黒人の身体を歴史的に過度な性的対象として扱ってきたことは、人間性を剥奪するための道具として利用され、「自然な」人種的特徴という口実のもと、暴力や構造的な支配を正当化してきた。)
備考
例文の中の distorted representation(歪んだ表象)や dehumanization(非人間化、人間性を剥奪すること)も重要表現です。
over-sexualization の問題は、特に黒人差別の歴史的文脈の理解が大切です。黒人女性については、白人男性による性暴力を正当化する文脈で「誘惑的で淫乱」とされてきた歴史があります。黒人男性については、hyper-masculinity(過度な男性性)や hyper-sexuality(過剰性欲)という概念を通していかに白人女性を脅かす危険な性的捕食者であるかが語られてきました。
under-sexualized
意味
「性的な存在ではないとされている」「性的主体性を認められていない」「性的魅力に欠けると決めつけられている」
例文
Disabled people are often under-sexualized by a society that views them only as objects of pity or medical care, denying their right to sexual identity and intimacy.
(障害者は、彼らを哀れみや医療ケアの対象としてしか見ない社会によって、しばしば無性的な存在として扱われ、彼らの性的アイデンティティや親密な関係を築く権利が否定されている。)
備考
障害者やアジア人男性について語られることの多いトピックです。
アジア人女性については前述の over-sexualization と under-sexualization が同時に起きている、という指摘がされてきました。
sexual attraction vs. romantic attraction
意味
「性的惹かれ」vs.「恋愛的惹かれ」
例文
Feeling sexual attraction does not grant anyone the right to objectify or ignore the boundaries of another person.
(性的惹かれを感じることは、誰に対しても、他者を客体化したり境界線を無視したりする権利を与えるものではない。)
In a society that prioritizes “true love,” those who do not experience romantic attraction often face exclusion and the pressure to conform to heteronormative ideals.
(「真実の愛」を優先する社会において、ロマンチックな惹かれを経験しない人々は、しばしば排除や異性愛規範的な理想への適応という圧力に直面する。)
備考
性的惹かれと恋愛的惹かれは必ずしも一致しない、という考え方(Split Attraction Model)が現在は主流です。例えば「相手の性別に関わらず恋愛感情は向くことがあるけれど、性的関心は特定の性別にしか向かわない」という人や、「性的関心は同性にしか向かわないが、恋愛感情は異性にしか向かわない」という人など、様々な人がいます。
heteronormativity
意味
「異性愛規範」(男女が愛し合い、結婚し、子どもを持つのが当たり前だという考え方)
例文
Heteronormativity is reinforced from a young age through media and education, making it difficult for individuals to imagine lives outside of the conventional binary.
(異性愛規範は、メディアや教育を通じて幼い頃から強化され、個人が従来の二元論の外側にある人生を想像することを困難にさせている。)
備考
heteronormative は形容詞で、「異性愛規範的な」という意味です。
例文の中の reinforced(強化された)も重要表現です。
他にシスジェンダー規範を意味する cisnormative [形容詞]、cisnormativity [名詞] という言葉もあります。
consent
意味
「合意」「同意」
例文
Consent must be enthusiastic, informed, and retractable at any time, moving beyond the mere “absence of a no.”
(合意は熱意的で、情報を共有された上のものであり、いつでも撤回可能なものでなければならない。単なる「拒絶の不在」を超えたものであるべきだ。)
備考
例文の中の moving beyond 〇〇(〇〇を超えていく、単なる〇〇に留まらない)も便利なフレーズなので覚えちゃいましょう。
例文の中の informed(情報を十分に受けている)も重要表現です。
erasure
意味
「消去」「忘却」「消すこと/消されること」
例文
The erasure of trans women of color from LGBTQ+ history overlooks their fundamental role in the Stonewall Uprising in 1969 and the often-forgotten Compton’s Cafeteria riot, which occurred three years earlier.
(LGBTQ+の歴史から有色人種のトランス女性の存在を消し去ることは、1969年のストーンウォールの反乱、さらにはその3年前に起こりながらも忘れ去られがちなコンプトンズ・カフェテリアの暴動において彼女たちが果たした根本的な役割を見過ごすことになる。)
By constantly ending queer romances with death or loss, film and television engage in the erasure of queer joy, denying audiences the possibility of imagining a fulfilled, long-term future for LGBTQ+ people.
(クィアのロマンスを絶えず死や喪失で終わらせることにより、映画やテレビはクィアの「喜び」を消し去っており、視聴者がLGBTQ+の人々の充実した長期的な未来を想像する可能性を否定している。)
備考
映画などで異性愛中心的なストーリーを際立たせるためにクィアな存在が悲劇的な死を迎えるなど「使い捨て」扱いされていることは “Bury Your Gays” というお約束として批判されています。bury は「埋める」「埋葬する」なので、”Bury Your Gays” は「ゲイを埋めちゃお」みたいな感じです。ちなみに bury の発音は「ベァリー」です。
bi-curious
意味
「バイ・キュリアス」(自分を異性愛者と定義しつつも、同性に対して性的・恋愛的な好奇心を抱いたり、それを模索している)
例文
Labeling oneself as bi-curious allows for a safe space to explore one’s attractions without the immediate pressure of adopting a permanent identity.
(自分をバイ・キュリアスと定義することは、恒久的なアイデンティティを名乗るという即座の圧力にさらされることなく、自分の惹かれを安全に探求できる場所を確保することに繋がる。)
備考
例文の中の allow for 〇〇 はあまり日本では習わない表現ですが、「〇〇が存在する余地を作る」という意味です。
passing privilege
意味
「パス特権」
例文
White cis-passing gay men often hold passing privilege, which shields them from the daily harassment faced by gender-nonconforming individuals.
(外見がシスジェンダーに見える白人のゲイ男性は、しばしばパス特権を保持しており、それが彼らを、ジェンダー不適合な人々が直面する日常的なハラスメントから保護している。)
備考
“check your privilege”(自分の特権を確認しな)という言葉がある通り、特権という概念は「あいつにはこんな特権があるぞ」と他者を糾弾するためのものというより「自分にはどんな特権があるんだろう」と考えるためのチェックツールです。
おまけ:性的指向を表す言葉たち
これ以外にもあると思うのですが、思いつく限り書いてみました。
heterosexual 異性愛
自分と異なる性別の人に性的に惹かれること
homosexual 同性愛
自分と同じ性別の人に性的に惹かれること
bisexual バイセクシュアル(両性愛)
自分の性別と、それとは異なる性別の、両方に性的に惹かれること
pansexual パンセクシュアル(全性愛)
あらゆる性別の人に性的に惹かれること(オムニセクシュアルと比較すると、相手の性別を意識しない人が多い)
omnisexual オムニセクシュアル
あらゆる性別の人に性的に惹かれること(パンセクシュアルと比較すると、相手の性別を意識する人が多い)
polysexual ポリセクシュアル
3つ以上の性別の人に性的に惹かれること
asexual アセクシュアル
性的惹かれを感じないこと
アセクシュアルのコミュニティには「全く性的惹かれを感じない」という人しかいないわけではなく、(少なくとも北米や西欧では)むしろ積極的に後述のデミセクシュアルやグレーセクシュアルの人を仲間として受け入れる傾向にある
asexual spectrum アセクシュアル・スペクトラム
性的惹かれを「ある」「ない」の二項対立で解釈するのではなく、度合いや頻度、あるいは惹かれが発生する状況など、人によって(あるいは同じ人でも時期によって)多様であることを理解する枠組み
demisexual デミセクシュアル
一定の人間関係が発生している相手にのみ性的に惹かれること(「一定の」の基準は人それぞれなので、1度会ったことがあればOKの人もいれば、長年親友のように過ごしてきた相手とかじゃないと惹かれないという人もいる)
greysexual / graysbexual グレーセクシュアル
性的惹かれを感じることが稀(まれ)であったり、感じる度合いが低いこと
freysexual / fraysexual フレイセクシュアル
一定の人間関係が発生している相手には性的に惹かれず、初対面や匿名の出会いなど人間関係が欠如した場面において相手に性的に惹かれること(「一定の」の基準は人それぞれなので、1度会った人と2回目はもう無理という人もいれば、何度も会っていても人間関係が希薄であればOKという人もいる)
autochorisexual オートコリセクシュアル(aegosexual エゴセクシュアル/エイゴセクシュアルとも)
性的興奮や惹かれはあっても、自分の身体を伴って性的行動をしたいとは思わないこと。auto- は「自分自身」、-choris- は「抜きに」という語源。
fictosexual フィクトセクシュアル
実在しない存在(キャラクターなど)にのみ性的に惹かれること。ficto- は「架空の」という意味で、fiction(フィクション)の語源でもある。
以上です
近いうちに今度は「障害編」を配信する予定です。ジェンダー編もまたそのうちやるつもりです。どうぞお楽しみに。
瀬戸マサキ

